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日刊オレラ

極上のひまつぶせるマガジン!

【小説】 第2話『軽音部のメンバー達』~異世界バンドマンは世界を救わない~



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イラストbyまがたさん

 翌日、僕は放課後まで一日中ボーっとして過ごしていた。突如異世界の女神様と出会って、世界を救う事になる。そんな突拍子もない出来事がまさか僕に訪れようとは。今でも納得いかず、ずっと考え込んでいる。

 

 

前回

orera.hatenablog.com

 

(っていうか僕に世界なんて救えるのか?)

 あの時はあまりにカナリアが必死だったから、つい安請け合いしてしまった。でも今になって冷静に考えると、自分がとんでもない約束をしてしまった事に気づく。

(僕に世界が救えるわけない! やっぱり断るか。でも断ったらカナリアが)

 カナリアの泣き顔が浮かび、胸が苦しくなる。一体どうすればいいと言うのだ。

 そんなことを考えながら部室に入る。するとそこには一人の男の姿があった。

 

「よう。しけた顔してんな、ケンスケ」

 そう声をかけてきたのは軽音部の部長、村ちゃんこと村岡ユキヤだった。長身長髪でいかにもバンドマンと言った風貌。そのルックスから、村ちゃんは女子からの人気が高い。だが村ちゃんは彼女ができても三日とその仲が続かない。それにはある理由があった。

「気分が落ち込んだ時はおっぱいの事を考えるのだ。おっぱいは俺達男の夢だ。おっぱい&ピース、そうだろう?」

 そんな渋い声で『そうだろう?』と言われても困ってしまう。

 そう、村ちゃんは極度のおっぱい星人なのだ。口を開けばおっぱいの事ばかり。村ちゃんの本性を知ると、女性達は皆離れていく。それが彼女と長続きしない理由だ。

 

「実は昨日色々あって」

「ほう、それはおっぱい的な話題か?」

 村ちゃんは何でも話をおっぱいに結びつける。これで軽音部の部長兼バンドのリーダーなのだから頭が痛くなる。

「いや、おっぱいは関係ないかな」

「それならおっぱいに関係のある話をしてくれ」

 そう言われても、おっぱいに関係ある話なんて、

(そういえば)

 ふと、カナリアの胸が僕の体に触れた時の事を思い出した。

(あれは柔らかかったなぁ)

 そんな事を考えていると、表情で読み取られたのか、村ちゃんがニヤリと笑った。

「なんだ、おっぱいに関係ある話もあるみたいじゃないか」

 村ちゃんにそう指摘され、僕の頬は熱くなった。

 

「デュフ、何を話しているのでござるか?」

 すると部室に大柄な男が入ってきた。うちの軽音部全三名のうち残り一人。天馬マツオ、通称天馬君だ。

「よう天馬、ちょうどケンスケとおっぱいについて語り合っていたところだ」

「またおっぱいトークでござるか。村岡氏もよく飽きないでござるな」

 天馬君はそう口にするとデュフデュフ言って笑った。

 天馬君はその口調からわかる通り重度のオタクだ。雰囲気も村ちゃんと対照的でいわゆるアキバ系といった感じ。

 しかし天馬君にはある特技があった。

「ところで拙者、ドラキンでまた全国一位取ったでござるよ」

 そう、天馬君は音楽ゲーム【ドラムキング】で全国一位に輝く凄腕ゲーマーなのだ。

 

 天馬君の経歴は少し変わっている。もともと天馬君はドラムキングと言うドラムを模した音楽ゲームのプレイヤーで、全国一位に輝く腕前を持っていた。それで『どうせドラムをやるのなら、ゲームだけじゃなく本物も』と、うちの軽音部に入部してきた訳だ。

 ちなみにうちの軽音部の構成はギター兼ボーカルが僕、ベースが村ちゃん、ドラムが天馬君となっている。

「ゲームと本物は別物なんだからな。あんまり調子に乗っているとそのおっぱいモミ倒すぞ」

「村岡氏は男のおっぱいでもイケる口なのでござるか。村岡氏、恐ろしい子!」

 こうやってふざけてはいるが、天馬君は日々ドラムの練習をして実力を上げてきている。うちの軽音部、期待の星だった。

 

 すると天馬君がこちらを向いて不思議そうな顔をした。

「どうしたでござるか大月氏。いつもと雰囲気が違うでござるよ」

 こういう時、天馬君は異常に鋭い。どうやら僕が悩んでいる事をすぐに察したようだ。

「……笑わないって約束する?」

 こちらからそう尋ねる。すると村ちゃんと天馬君は揃って頷いた。僕も覚悟を決めその言葉を口にする。

「実は昨日、異世界に連れて行かれたんだ」

 一瞬寒い空気が場を支配する。

「ケンスケ、バンドマン目指しているのはわかっているが、薬はダメだ。おっぱいで我慢しておけ」

「そういうのは自分の黒歴史ノートにだけ記すのを推奨するのでござるよ」

 案の定、僕の言葉はまったく信じられなかった。

 

 村ちゃんと天馬君は僕を憐れむような目でみつめてきた。

「本当なんだ! 異世界でドラゴンに追いかけられて、それから女神に世界を救って欲しいって、唐突に頼まれて」

「唐突なのは大月氏の話自体でござるよ」

 ああ、やっぱりそうだよな。自分でも唐突な話ではあると思う。でもこれが本当にあった話なのだから自分でも頭が痛くなる。

「さて、そろそろバカ話もやめて、練習するべ」

 村ちゃんはそう言うとベースのチューニングを始める。村ちゃんが真面目モードになった。つまりここから先おふざけは一切無し。本気で練習をするという事だ。

(仕方ない、今は昨日の事より練習だ!)

 僕も気持ちを切り替え、ギターのチューニングを始めた。

 

「よし、それじゃあ始めるぞ!」

 そう村ちゃんが口にすると、天馬君がドラムのスティックで合図を始めた。

(ワン、ツー、スリー、フォー!)

 合図と共に演奏が始める。楽曲は僕達のオリジナル曲。僕はギターを演奏しながら、マイクに向かって歌を歌い始めた。

 この演奏をしている瞬間が、僕にとって至福のひとときだ。腹に響く村ちゃんのベース。正確なリズムを刻む天馬君のドラム。何より、自分が今ギターをかき鳴らしているという事実が堪らなかった。この最高の気分を歌声に込める。僕は叫ぶようにして歌を歌った。

 演奏が終わる。

(終わってしまった)

 そう残念に思っていると、三人しかいないはずの部室に、無数の拍手が響いた。

 

 三人しかいない部室に響いた無数の拍手。それに僕は既視感があった。

「気のせいか、おっぱいのデカイ、チャンネーが目の前に見えるのだが。……それも背中から翼を生やした」

「気のせいじゃありません。ちなみに周りにいるのは妖精です」

 そう、目の前にいたのはカナリアと妖精たちだった。カナリア達は嬉しそうに拍手をしている。それに村ちゃんは驚愕しているようだった。

「大月氏」

「はい」

「拙者、いつからライトノベルの主人公になったのでござろう」

 そんな事聞かれたってこちらが困る。

 するとカナリアが笑顔を浮かべ、こう口にした。

「勇者の皆さん、お迎えにあがりました。さあ、私と一緒に参りましょう!」

 

「参るって、もしかして異世界にでござるか?」

「その通りです」

 カナリアがそう答えると、天馬君は立ち上がり叫んだ。

「異世界転移ものキター!」

 よくわからないが、天馬君的にどうやらオタク的な琴線に触れる物があったらしい。

「つまりはおっぱいちゃんの言うことを聞いて、異世界に行けばいいんだな」

 その言葉に僕は頷く。すると村ちゃんもまた立ち上がる。

「おっぱいちゃんの言うことは断れねぇ! 俺は行くぜ、異世界によ!」

「拙者もでござる!」

「それは良かった!」

 快く返事をした二人に対し、カナリアがふにゃりと笑みを浮かべる。

(二人とも順応性高いなぁ)

 僕は心の中でそうツッコミを入れた。

 

続く

 

 

 

▼この記事を描いた人▼