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【小説】第3話『異世界の事情』~異世界バンドマンは世界を救わない~



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イラストbyまがたさん

「さぁ、それでは参りましょう!」

 カナリアが目の前の空間を指でなぞった。すると異世界に繋がる穴が生まれる。僕らがその中に入ると、一つの街が広がっていた。

 

 前回

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 街中には人間やドワーフ、エルフに、その他諸々の異種族が大勢いた。

「本当に異世界に来ちまったな。でも……」

「なんで住人の目が皆死んでいるのでござる?」

 二人が言うとおり、街の住人たちは皆目が死んでいた。虚ろな目で虚空を見上げ、ボーっと歩いている。その光景は不気味だ。

「これについては後程説明します。まずは神殿に向かいましょう」

 カナリアが先頭に立って歩き出す。僕らもはぐれないよう、カナリアにぴったりくっついて歩いて行った。

 

「さぁ、どうぞ」

 カナリアに招かれ、僕らは神殿の中に入った。中に入ると神殿には神聖な空気が流れている。大理石でできた純白の建物は清らかさの象徴のように思えた。

 神殿の中の一室、客室のようなところに通される。そこで椅子に座ると、妖精達が飲み物の入ったグラスや果物を運んできた。

「どれもこの世界特有の果物です」

「うむ、旨い」

「飲み物もイケるでござる」

 カナリアの説明を聞き、早速村ちゃんたちが出された果物をむさぼる。本当に順応性が高いな、この二人は。

「僕らはこの世界を救うために呼ばれたんだよね? 一体ここで何があったんだい?」

 僕が本題を切り出す。すると果物を食べていた二人の手も止まった。

 

「世界を救うってのはマジだったのか」

 村ちゃんがそう尋ねてくる。それに僕は頷いて答えた。

「まずは皆さんにこの世界について説明しましょう」

 そう前置きをして、カナリアが話し始める。

「この世界では音楽が不思議な力を持っています。音楽が癒しの力を持っていたり、逆に人を傷つけたりする力を持つのです」

「ゲームでいう魔法がこの世界の音楽なのでござるな」

 カナリアの説明に天馬君が補足を入れる。

「その中でも聖歌と呼ばれる歌は最大級の安らぎを人々に与える物でした。聖歌の力によって人々は癒され、この世界からは争いが根絶されたのです」

 それは素晴らしい事だ。そう思っていると、突然カナリアの表情が曇った。

 

「確かに聖歌は人々に安らぎを与えました。でも同時にこの世界に破滅を招いたのです。安らぐという事は、争いや競争がなくなるという事。つまり」

「人々は安らぎ過ぎて、生きていく意味を失ってしまった。さっきの街の住民みたいに。そういう事だろう、おっぱいちゃん」

 村ちゃんの問いかけにカナリアが頷く。

「つまり安らぎ、言い換えれば退屈が世界を支配して、人々は精神的な死を迎えたのでござるな」

 天馬君の言葉を聞き考える。確かに安らかという事は何も起きないという事だ。何も起きない中、淡々と生きていく毎日。それは死んでいるのと同じじゃないか。そう考えるとカナリアの言う世界の破滅という事にも納得がいった。

 

「聖歌の発見により、人々の中でただ聖歌を聞いて、安らいでいればいいという考えが主流になりました。人々は自らの危機に気づかず、今この世界は緩やかに破滅に向かっています」

 そう語るカナリアの表情が暗い。その表情を見ていると僕の胸も痛む。カナリアにこれ以上悲しい思いをさせたくない。僕は思わず声をあげた。

「でも、カナリアは僕たちが世界を救えると信じているんだよね?」

 するとカナリアの表情が一気に明るくなる。

「そうです! 安らぎを与える聖歌に対し、人々に興奮を与える歌。そう、ケンスケ様達の世界で私は【ロック】と出会ったのです!」

 カナリアはそう言うと、キラキラした表情で僕たちを見つめた。

 

「私はロックと出会い、一つの可能性を見出しました。ロックの力があれば、聖歌によって衰退しつつあるこの世界を救えると!」

 カナリアはそう力説した。確かにロックは盛り上がる音楽だ。ロックがこの異世界に広がる事で新風を巻き起こす可能性は高いかもしれない。

「そこでお願いがあるのです」

 そう前置きをして、カナリアが話しだす。

「この世界を救うために、ケンスケ様達のバンドでライブを開催していただけませんか?」

 それは話の流れからある程度想像出来ていた事だった。しかし、

「拙者達の」

「ライブ、ねぇ」

 村ちゃんと天馬君が二人揃って僕を見つめてくる。僕もまた困ったように二人を見つめ返した。

 

 僕たちへのライブの依頼。それ自体は嬉しいのだが、正直戸惑うところもあった。なぜなら、僕たちがまだ結成して一年のアマチュアバンドだったからだ。

 僕たちのバンドも確かに演奏だけならできる。でもそれと上手い下手は別だ。

 それに僕達のバンドはまだライブの経験すらない。こんなバンドが世界を救うライブを果たしてできるのであろうか。疑問だった。

「二人はどう思う」

 リーダーである村ちゃんが僕たちに問いかける。

「世界を救うために役立ちはしたいけど……」

「拙者達には荷が重すぎるのでござるよ」

 正直な気持ちをそのまま口にする。すると村ちゃんが真面目な表情で、カナリアに話を始めた。

 

「おっぱいちゃん、俺達はあくまでアマチュアバンドに過ぎない。ロックのライブを開催するなら、こっちの世界に俺達より上手い奴らはいくらでもいるんだ」

「もちろんそれは存じています」

「それなら、なんで俺達三人にライブを依頼するんだ?」

 村ちゃんが決定的な質問をする。するとカナリアは僕達に視線を向けたまま、こう答えた。

「あなた達の演奏に、私の心が揺さぶられたからです」

「……どういう事だ?」

「私はケンスケ様の世界で、姿を隠し様々な人の演奏を聴いて回りました。その中で一番心を揺さぶられたのがあなた方だったのです。それに……」

「それに?」

 カナリアは僕に視線を向けると、突然顔を赤くしてしまった。

 

「あの、どうかした?」

 急に顔を赤くしたカナリアに尋ねる。するとカナリアは僕から視線を逸しながら語りだした。

「ケンスケ様の演奏を聴いていたら私、ケンスケ様の事がとても気になるようになってしまって……」

 ちょっと待って欲しい。それってつまり、もしかしてそういう事?

 すると村ちゃんと天馬君が二人揃って笑い出す。

「女に惚れられたなら、その想いに応えるしかないな」

「まったく、拙者としては『リア充爆発しろ!』って感じでござるな」

 二人揃ってとんでもない事を言い出す。僕とカナリアはアワアワと慌ててしまった。

「わかった。そのライブ、引き受けよう!」

 村ちゃんの鶴の一声。こうしてライブ開催は決まってしまった。

 

 こうして僕らの初ライブは、異世界を救うために行われるというとんでもないスケールになってしまった。

 村ちゃんは実力がそれなりにあるし、天馬君はゲームとは言え全国一位の実力を持っている。でも、

(本当に僕で大丈夫なのか?)

 僕はギターを始めたばかりの素人だ。歌だってあまり上手じゃないし、果たして本当にこの大役を成し遂げる事ができるのだろうか。

「ケンスケ様、期待していますよ」

 そう言ってカナリアは笑う。でもその笑顔に応えられるか不安で仕方ない。

(本当に僕で大丈夫なのか?)

 再び同じ質問を自分に問いかける。しかしそう簡単に答えが出るわけがなかった。

 

続く

 

 

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