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日刊オレラ

極上のひまつぶせるマガジン!

【コラム】 わたしはわたし -1-

エッセイ・コラム




 

今回はすこししっとりとしたおはなし。

これは小説のようで、小説ではないかもしれない。

これは現実と想像が入り混じったものかもしれない。

とてもとても曖昧だけど、ふと、何かを思う人がいるかもしれない。

曖昧な言葉のなかに潜めた現実を、見つけ出してくれたらいい。

 

ただ、大切な人に幸せになってほしいから、綴ります。

 

この話の中の「わたし」が「わたし」になるまで、お付き合いいただければ幸いです。

 

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イラスト:Tamasaki Riko

 

 

わたしは、だれだ。

わたしという生き物が存在しているということは、血肉を分け与えてくれた両親が存在する。

わたしというにんげんをこの世に生み出してくれたこと、育ててくれたことに感謝の気持ちをわすれたことはない。

 

だけど、わたしはわたしが一体何者なのか、わからない。

わたしは両親のコピーなのかな。

わたしは両親が夢見た、「理想の人生」のレールの上を歩くしかないのかな。

 

両親がこどもであるわたしの幸せを願うのは、当然だろう。

親子関係でなくても、大切なひとには幸せになってほしいと思うものでしょう。

でも、でも、誰かの幸せを願って思い描いていることが、相手にとっての幸せ像と一致しているとは限らない。

 

「あなたのためなの」

「あなたのことが心配なの」

「あなたがかわいそうだから」

 

親切心満載の言葉は、ときに呪いの言葉になる。

 

同世代のともだちと、年相応の遊びを経験したかった。悪いことなんてなにもしないし、出先で起こりうるトラブルや対処法をしらないわけじゃないよ。

たまにでいいから、学校から帰ったあとにともだちと集まって、思春期ならではのトークに花を咲かせてみたかっただけ。

 

学校の修学旅行も、両親が行き先にいい顔をせず、行かせてもらえなかった。理由は何度聞いても、明確な答えが返ってこない。なにか両親にとって嫌な思い出があるのかな。それくらいの予想しかできないんだ。

 

当然、大学のゼミメンバーで計画していた卒業旅行も断念したよ。

 

ほんとうは違った進路を選びたいのに、両親からこの言葉を投げかけられると、わたしのなかのかすかな勇気が打ち砕かれていくの。

「あなたのことが心配なの」と聞かされるたびに胸が苦しくなる。両親が悲しそうな顔をするんだもん。

こんな思いをするくらいならと、なんでもいうことをきく「いい子」でいることを選んだ。

 

社会人になってからも、わたしは「いい子」。

同期とはっちゃけて「カラオケオール」することなんてないし、休みの日も、何時に誰とどこに行くかを両親に告げていた。

 

異性とこっそりおつきあいだなんてもってのほか。気になる人ができたら、どんな人で、どんな仕事をしていて、どこに住んでいるのかを事細かに報告する「義務」があると思っていたんだ。

 

電話の相手も、筒抜けだった。

いちいち、誰となにを話していたのかと問われるのが面倒だから、わたしから報告していた。

そうすれば、あの呪いの言葉を聞かなくて済むから。

 

飛行機雲が映える青空のもとで揺れる、家族の洗濯物。

とても20代前半の娘がいるとは思わないだろうな。

 

白、黒、グレー、濃いめのベージュ。

わたしの着るものに、花のように鮮やかな色はない。

 

だって、「派手な格好してみっともないわ。変質者に目をつけられたらどうするの。ろくな娘じゃないってご近所さんに思われたらどうするの。あなたのためよ」って言われるのが、目に見えているから。

 

換気のために開けた窓から、かすかに柔軟剤の香りが入りこんでくる。

買うことも着ることもないコーディネートが載ったファッション誌は、ベッドのうえで風に遊ばれている。

 

ペラペラと紙がめくられるたびに、わたしに欠けている色が目に入る。

 

このままわたしは、両親の好みの色に染められ続け、両親が望む道を歩み続けるんだろう。

そうすれば、今までと変わらない毎日を過ごせる。

 

わたしは、だれなんだろうね。

まばたきをし忘れた目から、ひとつだけ涙がこぼれた。

 

 

 

 

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