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日刊オレラ

極上のひまつぶせるマガジン!

【小説】第6話『現実世界に帰って』~異世界バンドマンは世界を救わない~

小説 小説-異世界バンドマンは世界を救わない




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イラストbyまがたさん

 薄暗闇の中で僕はギターを弾いていた。とても気持ちのいい、最高の演奏。これは夢だ。そう悟った瞬間、薄暗闇が晴れていく。僕の意識は次第に覚醒していった。

 

 

 

 

 目覚めると、そこは控え室だった。中にはバンドのメンバーはもちろん。カナリアとお供の神官二人もいる。

 村ちゃんは泣いていた。自分の不甲斐なさを呪うように、悔しさを涙にして。

 天馬君は呆然としていた。もう何も考えたくない。その表情からそんな感情が読み取れる。

 そうだ、僕達のライブは失敗したんだ。そう思いだした瞬間、胸が苦しくなる。僕はカナリアの期待を裏切った。その事実が辛い。

「目覚められましたか」

 カナリアが声をかけてくる。それに僕は黙って頷いた。

 

「カナリア……ごめん」

 僕はカナリアを前にして、そうとしか言えなかった。するとカナリアが笑みを浮かべる。

「いえ、いいのです。ケンスケ様達が気に病む必要はありません」

「何を言っているのですか! カナリア様!」

 そう金切り声をあげたのはクックさんだった。

「今回のライブを開催するために、どれだけの神官を説得させたと思っているんですか! 今回の失敗で、下手をすればカナリア様の地位も!」

「良いのです、クック。私はこれで満足です」

 カナリアが僕達をかばうよう、口にする。その瞬間、張り詰めていたのだろう。クックさんはその場で泣き崩れた。

 誰もが無言のまま、ただ泣き声だけが響く。僕もまた悔しくて、泣いた。

 

 その後、僕らはカナリアに連れられ、元居た軽音部の部室へと戻ってきた。

「この度はありがとうございました。残念な結果になってしまいましたけど……私は満足です」

 そう言ってカナリアがほほ笑む。その笑顔はあまりに痛々しかった。

「私が皆さんとお会いするのもこれが最後です。短い間でしたが、ありがとうございました」

 これが最後、つまり僕らは唯一残されていた一度きりのチャンスを、あのような結果にしてしまったのだ。

「それではさようなら」

 異世界の中に繋がる穴にカナリアが消えていく。

「カナリア!」

 僕は思わず叫ぶ。しかしカナリアは立ち止まる事なく。そのまま異世界へと帰還して行った。

 

「俺達のせいで、多くの人に迷惑がかかった」

 村ちゃんは赤く泣きはらした目でつぶやいた。

「拙者たち、バンドには向いてないのかもしれないでござるな」

「そんなこと!」

 ない、とは否定できない。あんな大失敗をしてしまったのだ。僕らのバンドの実力が疑われたって仕方ない。

「……当分、部活は休止しよう。バンドもその間、活動休止だ」

 村ちゃんの重い決断。それに僕らは反論の言葉を返せなかった。

 こうして異世界でのライブで大失敗をした僕らは、バンド活動そのものを休止する事になった。

(僕らは一体、なんのために異世界に行ったんだ!)

 僕はそれが悔しくて、再び涙を流した。

 

 その翌日。軽音部の活動は休止だとわかっていても、僕は部室に来ていた。もちろん村ちゃんや天馬君の姿はない。

 たった一度の失敗。それが僕らには取り返しのつかないミスになった。このままだとバンドが解散し、軽音部自体が無くなるのも時間の問題だろう。

(僕はただ、楽しくギターが弾きたかっただけなのに)

 悔しさが湧き上がり、気づくと僕はギターを持ち立ち上がっていた。弦は昨晩張り替えてある。僕はこのどん底の中、独りギターを弾き始めた。

 無我夢中でギターをかき鳴らす。こうしていないと気が狂ってしまいそうだった。

(カナリア、カナリア!)

 カナリアの姿を思い浮かべる。最後に見せた儚い笑顔。僕は絶叫した。

 

(あれ?)

 ギターを弾き終え、僕は一つの事実に気づいた。今まであれ程僕らを苦しめ、ライブ失敗の原因にもなった、あの違和感がキレイさっぱり無くなっているのだ。

(どういう事だ?)

 思わず頭をひねる。だがあの違和感がなくなったという事は、もう一度異世界を救うために演奏ができるかもしれない。

 僕は再び演奏を始めた。今度は異世界を救えるかもしれないという可能性に賭けて。

 だが、

(おかしいな)

 再び演奏していると違和感が襲いかかってきた。さっきは完全に消えた違和感が蘇っている。一体さっきと今で何が違うと言うんだ。僕は悩みに悩んだ。だが答えは出ない。

(ああ、もう!)

 僕は堪らず再びギターをかき鳴らした。

 

(あれ、やっぱり消えてる!)

 再び無心でギターを弾くと、あの違和感が消え去っていた。一体この変化はなんだ。その時、ある事が思い浮かぶ。

(もしかして)

 まずは『それ』を意識してギターを弾く。やはり違和感がある。対して無心でギターを弾くと、

(違和感がない!)

 ようやく僕は違和感の正体を掴んだ。これが理由だったのかと僕は深く納得する。

 これさえわかれば、今度こそ異世界でのライブを成功させられるかもしれない。だが問題は、もうあの異世界に行く手段がないという事だ。

(何か方法はないか)

 思考しながらギターを弾く。すると小さな音だが拍手が聞こえてきた。まさかと思い目の前を見る。そこにはあの妖精の姿があった。

 

 そこには確かに異世界の妖精の姿があった。僕は思わず妖精に詰め寄る。

「君、なんでここにいるんだい?」

「演奏を聞きに来たですよ。とてもナイスな演奏でごじゃりました」

 妖精が独特の言葉使いで答える。そうか、まだ僕の演奏を聞きに来てくれる人がいたのか。それが嬉しくなる。

 それと同時に頭の中にいくつかの言葉が思い浮かぶ。

『妖精は種類を問わず物を運ぶ力を持っています』

『妖精は不思議な生き物じゃ。対価さえ払えばどんな物でも運んできてくれる』

『対価とはなんでござるか?』

『歌じゃよ』

 それらの言葉が一気に頭を駆け巡る。気づくと僕は妖精に向かい頭を下げていた。

 

 僕は妖精に向かい頭を下げた。

「今聞いた歌は対価になるよね? お願いがあるんだ!」

「なんでごじゃりますか」

 妖精が尋ねてくる。それに僕は頭を下げたまま答えた。

「僕を君達の世界に連れて行ってくれ! あの世界の神殿で、僕はもう一度カナリアと会いたい!」

 僕の思いをそのまま伝える。もしかしたら断られるか。そう思っていると妖精が僕の目の前までやってきて、こう言った。

「かしこまりまりー!」

 了承の返事だ。僕は嬉しくなって「ありがとう」と言葉を告げる。すると妖精はその場の空間を指でなぞり、異世界へ繋がる穴を作った。

「それでは、一名様ご案内―」

 妖精が穴の中に入っていく。僕もギターを持ちそれに続いた。

 

 穴を抜けた先には、確かに昨日までいた異世界の光景が広がっていた。目の前にはカナリアのいる神殿もある。

「ありがとう、妖精さん」

 改めてお礼を言う。すると妖精は「いえいいえ」と答え頭を下げた。

「ここから先は一人になりますますが、大丈夫でごじゃるか?」

「大丈夫、僕一人でもなんとかして見せる!」

 その力強い宣言に、妖精が拍手をしてくれる。

 カナリアと再び会うためには神殿の中に入らなければならない。今回は前回みたいな顔パスではなく、障害が立ち塞がるだろう。それでも、

(今度こそ僕はカナリアの想いに応えるんだ!)

 僕はそう覚悟を決め、目の前の神殿へと向かって行った。

 

続く

 

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