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【小説】 第9話『また会いに行くから』~異世界バンドマンは世界を救わない~



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イラストbyまがたさん

「それでは……」

「「乾杯!」」

 神殿の客室。そこで僕達はジュースの入ったグラスで乾杯をした。

 

 

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 無事にライブは成功。今はその打ち上げ中という訳だ。

「まさかあそこまで盛り上がるとは……感服です」

「ワシも驚いたぞ。この世界の住人にも、まだあれだけ熱狂できる力があったのじゃな」

 神官二人が感想を述べる。沢山褒められてつい顔がニヤけてしまう。

「でも本当に楽しいライブだったな」

「そうでござるな。拙者達も楽しかったし、観客もきっと楽しんでくれたでござる」

「ライブってこんなに楽しいんだね」

 前回の失敗により諦めていたら、この楽しさを知る事はなかっただろう。僕は勇気を出して良かったと心から思った。

 

 村ちゃんはクックさんの隣に座り直すと、早速クックさんに話しかけた。

「少しは見なおしてくれたかな?」

「悔しいですが、認めます。ただ悔し涙を流しているだけのひ弱な男ではなかったのですね」

「辛辣だな」

 そう言って村ちゃんが笑う。

「あんまり厳しい事言うと、またモミモミしちゃうぞ、メガネ甘ロリおっぱいちゃん」

「だからその呼び方はやめてください!」

 そう口にしてからクックさんは少し恥ずかしそうにこう返した。

「……私にはクックという名前があるのですから、ちゃんと名前でお呼びください」

 その一言に村ちゃんの表情が明るくなる。

「わかった、これからもよろしくな。クック」

 それを聞いてクックさんは頬を赤く染めた。

 

 そうかと思うと、その隣では天馬君が膝の上にロビンさんを乗せ、ひたすら頭を撫でていた。

「やっぱりロビンたんをもふもふすると癒やされるのでござるなぁ」

「天馬殿、ワシに求婚するという話はどうなったのじゃ?」

「もちろん約束は守るのでござる! ロビンたん!」

「はい」

「拙者のために、毎朝みそ汁を作って欲しいのでござる!」

「なんじゃ、その訳のわからぬ求婚は。まあ仕方ない、よしとしよう」

 そう言ってロビンさんが天馬君の頬にキスをした。すると「キタコレ!」と天馬君が叫ぶ。

「絶対幸せにしてみせるのでござる」

「期待しておるぞ」

 ロビンさんの見た目が幼いだけに危険に見えるが、こちらもまたお似合いの二人だった。

 

「ケンスケ様、少し外に出ませんか?」

 カナリアが僕にそう耳打ちをする。それに僕は頷き、二人でテラスへと出て行った。

「今回はありがとう。カナリアのおかげで最高のライブができたよ」

「私の方こそ。ケンスケ様のおかげでこの世界も良い方向へと進めそうです」

「それは何より」

 でも僕らは世界を救ったなんて思っていない。あくまで僕らはライブで楽しく騒いだだけだ。それに観客が応えて、盛り上がった。ただそれだけの事だ。

「この世界には沢山の国や街があります。そのどれもが聖歌の害に侵され、少しずつ破滅の道を歩んでいるのです」

 つまりはそれらの国や街も救っていかなければならない。

 僕はカナリアの言いたい事を察した。

 

「つまり、カナリアはこう言いたいんだね。僕達のライブを、異世界中で開きたいと」

「そうです。お願いできますか?」

 カナリアが控えめに尋ねてくる。

 異世界中でライブを行う。つまりツアーを開催するという事か。僕らのようなアマチュアバンドにはもったいない程の好待遇だ。

「繰り返すようで悪いけれど、僕らには世界を救う事はできない。でも歌を歌って騒ぐ事はできる。それが結果として世界を救うのであれば、僕はこの世界のありとあらゆる場所でライブをやってみたい」

「ケンスケ様……!」

 すると突然カナリアが僕に抱きついてきた。急に抱きつかれたものだから、僕も混乱する。

「カナリア?」

 するとカナリアは涙を浮かべていた。

 

「私、怖くて仕方なかったんです。このままこの世界が滅んでしまうのではないかって。でもケンスケ様が現れてくれたおかげで、ようやく安心する事ができました」

 それがカナリアの本音だったのだろう。聖歌の力で衰退しつつある世界。そこに僕らのバンドが現れた。聖歌とは真逆の人を盛り上げる音楽。それが僕らの演奏するロックだ。

「これからも、私と共について来てくれますか?」

 カナリアが目を潤ませながら問いかけてくる。ある意味告白にも近い言葉。それに対し僕は、

「喜んで。僕は、カナリアの力になりたい」

「ケンスケ様!」

 お互いキツく抱きしめ合う。カナリアの温もりが僕にしっかりと伝わってきた。

 

 カナリアとキツく抱きしめ合う。すると何やら物音が聞こえてきた。音のした方を見る。すると客室に残してきたはずの四人が、物陰からこちらを覗いていた。

「カナリア様、それ以上はいけません。破廉恥です!」

「いいじゃないかクック。おっぱいちゃんも本望だろうよ」

「こちらがどう言おうとなるようにしかならんさ。ワシらはそれを静かに見守るだけじゃ」

「さすがロビンたん、言うことが違う!」

 それぞれのつぶやきが聞こえてくる。このまま出歯亀されるのもカナリアに悪いから、僕は声をかける事にした。

「四人とも、出てきていいよ」

 すると四人が驚いた様子を見せたあと、ぞろぞろと出てくる。それを見てカナリアは固まっていた。

 

「い、一体いつから見ていたのですか?」

 カナリアが僕から離れながら、恐る恐る尋ねる。すると村ちゃんは笑みを浮かべこう答えた。

「『ケンスケ様、少し外に出ませんか?』のあたりからかな」

 つまり最初から全部覗き見していたという事だ。カナリアの頬が一気に赤くなる。

「それより、異世界中でライブをやりたいって話していたのでござろう?」

 天馬君が話題をさり気なくそらしてくれる。天馬君の気遣いに感謝だ。

「それってつまり、全国ツアーってことだよな?」

 村ちゃんの言葉に僕は頷いて答える。

「全国ツアーか。わくわくするな」

「拙者も楽しみでござる」

 二人がそれぞれ声をあげる。僕らはまだ見ぬ全国ツアーに思いを馳せた。

 

 翌日、僕らは元居た現実世界へ戻る事になった。ちなみに昨夜は親に友人の家に泊まってくると伝えてある。

 現実世界に戻る前に、クックさんとロビンさんが見送ってくれた。

「今回はありがとうございました。次のライブも期待しております」

「ああ、必ずクックを満足させるようなライブをしてみせるぜ。期待してな」

「ロビンたん。拙者、必ず戻ってくるでござるからね!」

「楽しみに待っているぞ。我が夫よ」

 見送り、というよりイチャつきが終わり、カナリアが現実世界への穴を開ける。

「さあ、皆さん参りましょう」

 その言葉に従い、僕らはこの異世界を後にした。

 

 現実世界に戻ると、そこは元居た学校の部室だった。帰ってきたんだ。そう思い安堵のため息をつく。

「皆さん、この度は本当にありがとうございました。皆さんと出会えて、私は幸せです」

「俺もおっぱいちゃんと会えて、最高のライブができてよかったよ。ありがとな」

「拙者も嫁まで見つかったし、本当に楽しかったでござる。ありがとう」

 それぞれがお礼の言葉を述べる。僕もまたそれに続いた。

「カナリア、僕も今回最高の体験ができて本当に楽しかったよ、ありがとう。また必ず会いに行くから」

「はい!」

 そう元気よく頷き、カナリアが異世界へと戻っていく。

(本当にありがとう、カナリア)

 僕は心の中でそうつぶやいた。

 

続く

 

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