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【小説】 第10話『異世界バンドマンは世界を救わない』~異世界バンドマンは世界を救わない~



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イラストbyまがたさん

 あれから一ヶ月が経った。この一ヶ月間、カナリア達はこちらの世界にやってきていない。おかげでこっちはずっとやきもきしていた。

 

 

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「はあ」

 思わずため息をつく。すると村ちゃんに頭を叩かれた。

「こら、ふぬけない。一週間後には文化祭なんだぞ」

「それはわかっているけど……」

 そう、丁度これから文化祭の季節。学校をあげてのお祭りが始まろうとしていた。

「でもさ、天馬君を見てご覧よ」

 僕が天馬君を指さす。すると、

「はあ、ロビンたん。会いたいでござる」

 そこには僕以上にふぬけた天馬君の姿があった。

「まったく、お前らは……」

 そう言いつつ、最近村ちゃんもため息をつく事が多いのは、敢えて黙っておいた。

 

 すっかりふぬけてしまった僕達。しかしそれとは逆にバンドとしての演奏の腕前はだいぶ上達していた。

 文化祭の練習のため、三人でセッションをする。すると今まで以上に気持ちのいい演奏をする事ができた。

「やっぱり実際にライブを経験すると感覚が違うね」

「あのライブは俺たちにとっていい経験だったわけだな」

「なんだかドラムを叩いていても前とは全然違うのでござるよ」

 三人共感じている事は同じらしい。やはり僕らはあのライブでだいぶ鍛えられたようだ。

 これなら文化祭でも良いライブができそうだな。そう考えると、もうすぐ訪れる文化祭の日が今から待ち遠しく感じるのだった。

 

 そして文化祭当日。僕らは準備に追われていた。

「照明これで大丈夫かー!」

「大丈夫でござるよ!」

「次はアンプの方もチェックしてくれ」

「了解だよ!」

 機材の準備で僕らは予想外に手間取っていた。こんな時に妖精がいてくれたら、ふとそんな事を考えてしまう。

(どうも僕の思考もだいぶ異世界よりになってきているみたいだな)

 そう思い、一人で苦笑する。

「ケンスケ、ボーっとしてないでマイクチェックしてくれ!」

「了解!」

 村ちゃんにどやされすぐにマイクチェックをする。舞台の体育館の舞台でマイクを握り立つ。

(ここで僕らはまた歌えるのか)

 そう考えると自然と顔がほころんでいった。

 

 午後三時。僕らは体育館の舞台袖で出番を待っていた僕らの前に行われた演劇も終わり、楽器類の用意もできた。後は本番が始まるのを待つだけだ。

 正直、僕は緊張していた。わずか一ヶ月前にあれだけのライブをやったというのに、やっぱりこの感じは慣れないものだ。

 でも緊張していると言っても、嫌な感じはしない。むしろこれから始まる本番に対して僕は期待をふくらませていた。

「今回も楽しいライブにしようね」

「当然だとも。観客も含めて皆で楽しめるライブにしようぜ」

「拙者、全力を出すのでござるよ。それで今回もライブを楽しむのでござる!」

 もうかつての違和感は存在しない。僕らはライブを楽しむという事を知っていた。

 

「それでは続きまして、軽音部の皆さんによるライブです」

 放送部員の進行と共に、ライブの時がきた。幕が開くと共に僕らは舞台へ飛び出す。

「どうも、軽音部です! 今日は皆、楽しんでいってくれー!」

 村ちゃんが盛り上げようと声をあげる。すると観客席から歓声があがった。

 さぁ、始めよう。天馬君の合図と共に演奏が始まる。

 村ちゃんのベースがいい具合に響く。天馬君のドラムが心地いいリズムを刻む。僕のギターが下手くそながらも情熱的に鳴る。僕の歌声が観客達に伝わっていく。最高の気分だ。

 僕達は用意されていたセットリストをあっという間に演奏し切ってしまった。観客は演奏後も盛り上がっている。ライブ成功だ。

 

 僕らの出番が終わり、幕が下がる。僕らはお互いの手を叩き合った。

「「おつかれー!」」

 気持よく響く声。今日のライブも緊張したけれど、最高の物にできた。その達成感が堪らない。

 そんな事を考えていると、予想外の声が聞こえてきた。

「アンコール! アンコール!」

 なんと観客からのアンコールだ。これはさすがに僕らも予想していなかった。

「どうする?」

「やるしかないでござろう! 常考!」

「俺らの曲もまだストックがある。ここは観客に甘えさせてもらおう」

 意見はどうやら一致のようだ。僕らは再び楽器をそれぞれ用意し、舞台の上に立つ。同時に幕が開いた。

「さあ、アンコールの始まりだ!」

 その瞬間、会場を熱狂が包んだ。

 

 アンコールが始まると、観客は歓声をあげた。

「あのベースの人、かっこいい!」

「ドラムの人もオタクっぽいのにかなりいい感じ!」

「ギターの子も可愛い!」

 観客からそんな声が聞こえてくる。僕は可愛いのか。なんだか複雑な気分だ。

 するとどこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。声のした方に注意を向ける。

「ケンスケ様ー!」

(カナリア!)

 そこに居たのは間違いなくカナリアだった。隣にはクックさんとロビンさんの姿もある。

(まさか僕らのライブに来てくれるなんて)

 僕の中で一気にテンションが上がる。それは村ちゃんや天馬君も同じだったようで、僕らの演奏は更に熱を帯びていった。

 

 ライブを終え、僕はすぐにカナリア達に会いに行った。するといつも通りの白いドレス姿でカナリアが出迎えてくれる。

「久しぶり。その背中の翼、驚かれなかったかい?」

「ブンカサイとやらの出し物だと思われました」

 そう言ってカナリアがほほ笑む。僕も思わず笑みを浮かべた。

「今日の演奏もなかなかでした。調子が出てきたようですね」

「クックにしては甘い評価だな。でも嬉しいぜ」

「夫よ、とても良い演奏じゃったぞ」

「ロビンたんにそう言ってもらえるなら、拙者はもう大満足でござる!」

 それぞれ今回のライブについて語り、笑い合う。僕達は一ヶ月ぶりの再会を喜んでいた。

 

「そう、今回は大事な話があるのでした」

 カナリアの一言にその場の空気が真面目なものに変わる。

「いよいよ、私達の世界でツアーができる準備ができました! 皆さん、準備はよろしいですか?」

 その問いかけに対し、僕達三人は見つめ合い、即答する。

「「もちろん!」」

 その答えにカナリアの表情が明るくなる。神官の二人もほほ笑んでくれていた。

「まずはもう一度こちらの世界に来てください」

 カナリアはそう言うと指で空間をなぞり、異世界へと続く穴を作った。

「さあ、参りましょう!」

 早速カナリアが穴の中へと入って行く。それに続いていき、僕らは再び異世界の地へと踏み入った。

 

 ギターをかき鳴らしている時だけ、僕は自由になれる。僕は僕という存在から開放されるのだ。

 つまり、僕は自分を開放するためだけにギターを弾いているのだ。そこに異世界を救おうなんて気持ちは一切ない。ただ楽しく演奏できればいい。そう心から思っていた。

 そしてそんな僕の演奏が結果として世界を救うのなら、それはまたそれで素晴らしい事だ。でも世界を救ったのは僕自身ではない。僕らの音楽に熱狂し、生気を取り戻した異世界の住人達が自身で世界を救ったのだから。

 だから結論を述べると。

 異世界バンドマンは世界を救わない。でも僕らの演奏によって気づいたら世界が救われているのなら、それはきっと素晴らしい事なのだ。

 

第1巻『ハロー異世界』完

第2巻『黒の女神と救世団』に続く

 

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