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【小説】第11話『顧問現る』~異世界バンドマンは世界を救わない~



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イラストbyまがたさん

 僕ら、桜木高校軽音部にはある秘密がある。

 

 

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 今日も僕ら軽音部は部室に集まりある準備をしていた。

「二人共、準備はいいな」

 軽音部の部長にして僕達のバンドでベース担当の村ちゃん(おっぱい星人)が声をあげる。

「毎度ドラムを一式持って行くのは面倒なのでござるよ」

 音楽ゲーム全国一位の実力を持つドラマー天馬君(見た目小学生の奥さんあり)はそうぼやいた。

「部費の予算が降りたらドラムをもうワンセット買うのもいいかもね」

 それに我が軽音部一のへっぽこギター&へなちょこボーカルの僕、大月ケンスケが意見を言う。

「その話はまた今度だ。さぁ、出発するぞ」

「どこに出発するんだ」

 すると僕ら三人以外の声が響いた。

 

「どこに出発するか、そう尋ねているんだ」

 声をかけてきたのは、軽音部の顧問である王滝先生だった。王滝先生は若い長身の男性で、女子からも人気が高い。

 王滝先生には僕らの秘密をまだ明かしていなかった。思わず冷や汗をかく。

「いや、出発って言っても実際に出かける訳ではなくて。『さあ演奏を始めよう!』的な意味です、はい」

 村ちゃんが強引に言葉の意味をねじ曲げようとする。当然王滝先生は疑うようにこちらを見た。

「……危険な事だけはするな。それだけ言っておく」

 そのまま王滝先生は部室から出て行った。とりあえず危機からは脱出できたようだ。

「ありゃ何か感づいているな」

 村ちゃんは汗を浮かべそうつぶやいた。

 

「妖精さん、出てきていいよ」

 そう僕が口にすると、胸ポケットから小さな妖精が姿を現した。

「さあ、今日も女神様のところに参るのでごじゃりますよー」

 妖精が独特の言葉使いで話すと、指先で空間をそっと撫でた。するとファスナーが開くように空間に穴が空く。

「改めて、出発!」

 村ちゃんの声に従い、三人で穴の中へ入って行く。すると穴の外側は街の広場だった。それもただの広場じゃない。人間の他にドワーフやエルフ、その他諸々の異種族が歩いている。

 そう、ここは地球ではなく異世界。音楽世界ムジークと呼ばれる場所だった。

「ケンスケ様!」

 すると一人の女性の声が聞こえてきた。この世界の女神、カナリアの声だ。

 

 カナリアは僕の事を見つけると嬉しそうに背中の翼を羽ばたかせた。

「やあ、カナリア。ライブの準備はどうだい?」

「順調ですよ。今ごろ妖精達が機材を運んでいるところです」

 それを聞いて安心する。僕らはとある事情からこの異世界でライブツアーを行っていた。ツアーは順調で、多くの異世界人から支持を得ている。

「ところでケンスケ様、後ろにいらっしゃる方はどちら様なのでしょうか?」

 カナリアが妙な事を言う。一体なんだろうと後ろを振り向く。そこには、

「な、なんだここは! 私は夢でも見ているのか?」

「「王滝先生!」」

 そこに居たのは、混乱のあまり気絶寸前の王滝先生だった。

 

「……つまり、ここは地球とは違う、音楽が特別な力を持つ異世界で」

「僕らはライブも兼ねて聖歌からこの世界を救おうとしているんです」

 説明を受け王滝先生が信じられないという表情を浮かべる。

「なんでその聖歌がダメなんだ? 人を癒やす力を持っているなら良いじゃないか」

「それが問題なんです。聖歌がこの世界に氾濫した事で、人々は癒され過ぎて生きる気力を失ってしまったのです」

 カナリアが王滝先生の質問に答える。すると王滝先生が唸りだす。

「聖歌に対抗するために人に活力を与えるロックが必要な事は理解した。だがなぜお前達のバンドが選ばれたんだ?」

 その問いに「女神に一目惚れされたからです」とはとても言えなかった。

 

「それと失礼ですが、女神とはどういう存在なのですか?」

 王滝先生が質問を続ける。それにカナリアが答えていく。

「女神とは、あなた達の世界で言う市長だと思ってもらえればわかりやすいです。教団という議会がこの世界には各地に存在し、その教団に神官と呼ばれる市議会議員が多数在籍しているのです」

 それは僕も初耳の事だった。だから神官の中にもカナリアに反対の立場を取る人もいるのか。

「市長って、意外と低い立場だったんだな」

 村ちゃんが率直な感想を述べる。するとカナリアが苦笑する。

「市長というのはあくまで例えです。女神はこれでも一応神格化されているんですよ。良くも悪くも」

 そう語るカナリアの顔に影が差していた。

 

「そろそろライブの話もしようぜ。今日の舞台はどんなところなんだ?」

 村ちゃんが問いかけ、それにカナリアが答える。

「舞台はここ【大都市カメーリエ】です。その名の通り、ここはこの世界でも一、二を争う大都市です。ここでライブが成功すれば私達にとっても大きな飛躍になるでしょう」

「それはなかなか緊張するのでござるな」

 天馬君の言うとおり、僕も話を聞いて一気に緊張する。でも大丈夫。最初にやったライブの時みたいな違和感はない。あるのはわくわくとした楽しみな緊張感だ。

「ただ、一つだけ気にかけていて欲しい事があります」

 カナリアが真面目な表情でそう口にする。僕らもまた続くカナリアの言葉を真剣に聞いた。

 

「この都市には最近【救世団】と呼ばれる組織が台頭しているのです」

「それは教団とはまた違うのかい?」

 僕はそう問いかけた。するとカナリアが渋い顔をする。

「我々教団が市議会なら、救世団は過激派思想組織です。救世団に属する女神もいますが、危険団体である事に間違いはないでしょう」

「一体どんな思想を掲げているのでござるか?」

「『聖歌こそすべて。聖歌による救世』が彼らの思想です」

「つまり、俺達にとって敵対関係にあるって事か」

 村ちゃんの言葉にカナリアが頷く。

 まさか僕らに敵対する団体が出てくるとは思わなかった。このライブ、波乱を呼びそうだ。僕はそう思い、一人手をぎゅっと握りしめた。

 

「王滝先生はどうするんだ? まさかライブに同席するわけにもいかないし」

「いや、私はお前たちについて行くぞ」

 そうきっぱりと言い切った王滝先生に村ちゃんが目を丸くする。

「私は軽音部の顧問だ。顧問として、生徒の安全を見届けるのは義務だからな」

 なんと律儀なのだろう。僕は王滝先生の真面目さに思わず感動した。

「それでは王滝様には特別席で一緒にライブを観覧していただきましょう。よろしいですか?」

「私はそれで構いません。ただし」

 王滝先生が僕らの方に振り向く。

「もし少しでも危険があったら、意地でも元の世界に戻ってもらうからな」

 王滝先生がハッキリと告げる。何もトラブルが起きないよう僕は心の中で祈った。

 

「ライブ会場はこのすぐ近くです。このまま歩いて行きましょう」

 カナリアがそう告げると、村ちゃんと天馬君が同時に問いかけた。

「クックは会場に来ているんだよな?」

「ロビンたんはもちろん居るのでござるな?」

 クックさんとロビンさん、二人は神官にして、それぞれ村ちゃんや天馬君といい感じの仲になっているのだ。

「ご安心を。ちゃんと会場でスタンバイしていますよ」

 それを聞いて村ちゃんと天馬君の表情が一気に明るくなる。

「大月、もしやあの二人にはこの世界に彼女でもいるのか」

「黙秘します」

 まさか天馬君の方は既に婚約済みとは言えない。それも見た目が小学生のような女性とは。僕は乾いた笑いを浮かべた。

 

続く

 

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